2023年12月期業績の評価と分析
2023年12月期は、期初予想を上回る好業績を達成することができました。
この主な理由は、消費動向に回復が見られる中、「値上げ効果」と「顧客の来店頻度の向上」により売上高が向上したことです。そして、利益においては、インフレによりコスト増となったものの、既存店の「売上回復」と「粗利益・コスト改善」により黒字化を達成できました。
昨年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、6月中旬より「ガスト」でキャンペーンを実施し、客数増に大きく貢献しました。しかし、コロナ禍で店舗人員が減少しており、お客様に十分なテーブルサービスをご提供できなかったことを反省しています。これに速やかに対応するために、9月より人員強化のため前年比140%の採用を行い、1人当たり20時間のトレーニングを設定するなどの経営課題に対処しました。10月以降はグランドメニューの大刷新を行いました。直近の消費動向を反映させた「コストパフォーマンスの高いメニュー」を各ブランドに導入し、低単価のサイドメニュー拡充やアルコール商品の値下げ、割安な価格でのセットメニューの提供などでお客様が選ぶ楽しみを演出したとともに「もう一品」の注文を喚起し、注文皿数増による客単価上昇に貢献しました。この改定では小皿商品充実により、様々なシーンでの使い勝手が向上したことによる来店頻度の増加についても企図しました。
こうした様々な活動を通じて既存店売上高は、前年比118.4%となりました。また、値上げによる各メニューの粗利益率の改善や店舗での食材ロスの低減、部門横断の原価低減プロジェクトで講じた対策などにより、売上総利益率は67.6%と前年同期比で0.5%低下しましたが、依然として業界の最高水準を維持しています。
販売費および一般管理費は増加したものの、全社レベルの収益改善プロジェクトの取り組みにより、実質的には大幅な経費抑制を実現しています。全店舗の経費執行のムリ、ムダ、ムラを徹底的に排除し、売上増による純増分を除いて水道光熱費を約6%、食器費・消耗品費を約10%削減するとともに、売上の安定的な回復に伴い店舗の労働時間も適正に管理できるようになっています。
新規出店は27店舗、業態転換は41店舗でした。新規出店27店舗のうち7店は海外での出店で、台湾で「しゃぶ葉」「横濱牛排(ステーキ)」「むさしの森珈琲」を、マレーシアで「しゃぶ葉」をオープンしました。店舗リニューアルも継続して行っており、104店舗を実施しました。また、アフターコロナを見据えて開発を進めた新業態については、2023年12月末までに「八郎そば」は2号店まで、「飲茶テラス 桃菜」は13号店までをそれぞれオープンしました。どちらもお客様から高い評価をいただいており、今後の新規出店や業態転換の新たな業態候補として収益構造を固めていく予定です。
2023年12月期を総括すれば、「成長に向けての事業基盤が整った1年」だったと評価しています。
中期事業計画の成長戦略
すかいらーくグループは、
「新規出店」「既存店成長」「海外展開」「M&A推進」の4つを中期事業計画における成長戦略として、KPIを設定して推進しています。
国内における
「新規出店」ですが、出店余力はかなりあると考えています。すかいらーくグループは、これまで地方のロードサイド店を中心に展開してきましたが、今後は大都市圏における商業集積地域をはじめ、大都市や地方都市の駅前地域をターゲットにした出店を計画しています。昨年実績は、1店舗当たりの売上が平均よりも2倍から2.5倍となっており、地方のロードサイドにあるガストやバーミヤンの店舗を駅前に変更させていくことで、成長の可能性が高まります。さらに、人口10万人以上の地域で複数のブランドを出店することも可能だと考えています。
現在、年間100店舗体制の確立を目指して出店開発メンバーを増強しています。また、店舗マネジャーの確保についても、人財の採用と育成を強化して対処していきます。
「既存店成長」においては、客数の増加が重要だと考えています。今年は前年5月までのコロナ規制解除の反動もあり、対前年比で客数6%、客単価1%上昇が目標ですが、2027年12月期までのKPIは「客数の年平均成長率1%」と「客単価の年平均成長率2~3%」としています。この達成に向けては、メニューの改定や各種オペレーション施策、店舗マネジャーへのインセンティブなど、様々な客数増加の施策が重要です。現在、注力しているのが、年間を通じて土日祝日にどれだけご来店いただけるかであり、お客様にサービスや品質の良さを感じていただくことが重要だと考えています。また、業態転換や店舗リニューアルも客数・売上効果の高い施策として、積極的に推進していきます。
「海外展開」については、台湾、マレーシア、米国の3か国に進出しています。台湾は現在72店舗で、これまでは「グラッチェガーデンズ」「しゃぶ葉」を中心とする展開でしたが、新たなブランドとして「むさしの森珈琲」と「横濱牛排(ステーキ)」を4店舗開店しています。昨年は新工場が稼働し、出店拡大の土台ができました。毎年10店舗のベースの出店を計画中で、2027年までに100店規模を達成できると見込んでいます。
マレーシアでは、クアラルンプールに4店舗出店しており順調に推移しています。5号店はクアラルンプールから少し離れたペナンに出店する予定で、将来的にインドネシア、フィリピンなど、東南アジア各国への進出への足がかりにしていきたいと考えています。
米国は、現在シカゴに1店舗出店しています。コロナ禍の影響で出店が2年ほど遅れましたが、順調に業績を伸ばしており今年は売上高7億円を見込んでいます。米国は日本と比べて客単価で3倍、客数は2倍が見込める市場であり、3~5店舗程度で実績をつくることができれば、FCによる急速展開が可能になると考えています。
私たちの
「M&A推進」における基本方針は、「無いものねだりはしないこと」です。すかいらーくグループが持つノウハウやインフラを最大限活用できる領域においてのみ決断することとしており、規模を追い求めての同意なき買収などは考えていません。私たちが相手先に求めるものは、企業規模、商圏エリアや地域に関係なく、「コンセプト」や「顧客支持」がしっかりとあることです。私たちとwin-winの関係を構築することで、労働力/資金不足などの成長阻害要因を払拭し、パートナーとしてともに成長できればと考えています。ローカル企業やスタートアップ企業を中心に、2027年までに3~5件のM&Aを想定しています。
M&A費用は総額500億円程度を想定しています。なお、M&A戦略は中期事業計画の数値目標には含めていないため、実現すれば、アップサイドの効果になります。
資本効率改善に向けた視点
当社は会計基準にIFRSを採用しており、経営効率を表す指標としてROAでは誤解を招く恐れがあることから、ROEを用いることとしています。今回発表した中期事業計画では、ROEの目標数値を現在の3%から2027年12月期には9~10%へと引き上げる計画です。ROEについては、「人財」への投資やM&A、そして原価改善を考慮すると将来的には、10%以上の継続を目指したいと考えています。私は「人財」への投資は、「良いサービス」を創造し「客数と客単価」を増加させ「企業収益」が向上することで、結果として従業員の給料UPにつながる好循環を構築できると確信しています。今年は1人当たり6.22%の賃上げや、従業員の育成やトレーニングで約40億円程度の投資を実施しており、会社の収益に貢献してくるものと見込んでいます。また、将来的にはROIC(投下資本利益率)も経営指標とすることを視野に入れています。
インフレや金利上昇などリスク管理面では、為替リスクは確かに高いインパクトがあり、1円の円安で約1億円の原価高騰につながります。金利リスクについては、固定金利なので短期的には影響は限定的です。また、信用格付においてはこの度「A-」を取得し、社債市場での資金調達が可能となりました。
リスク管理面では「人件費」の高騰が一番のインパクトとなります。これについては、毎年40億~50億円は上昇していくものと想定しています。ただ、繰り返しになりますが、レストランチェーンとして「人財」に対しては投資と捉えた財務戦略の実践が重要だと考えています。
今後の見通しと株主還元
2024年12月期の見通しは引き続き「増収増益」を想定しています。売上高は3,750億円(202億円増)、事業利益は170億円、営業利益は150億円、税引前利益は120億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は75億円を見込んでいます。この業績予想の発表時には、今年4月の値上げを見込んでいませんでした。それを加味すると、営業利益レベルでは想定以上の結果を得られるものと考えています。また、投資家の方々から粗利益率の低下傾向についてご質問を受けますが、円安やウクライナ情勢など経済環境が安定しない限り、直ぐに以前の70%に戻すのは難しいと考えています。現状の粗利益率は67%程度ですが、粗利益高で見ると十分な金額を確保できており、率と高のバランスを重視しています。引き続き消費動向の変化を注視しながら粗利益率の改善に努めていきます。
株主還元については、今回業績が回復し1株当たり7円の配当を実施しました。今後も収益とのバランスを取りながら配当性向30%以上のレベルを維持した安定的な配当を目指してまいります。同時に、株主優待については、他社と比べて高いレベルにあると認識しており、現行の内容を継続する方針です。また、資本効率の観点からROEを上げるために自社株の消却をしないのか?という見方がありますが、今はエクイティ(資本)を減らすよりもリターン(利益)を増加させる考えです。すかいらーくグループの成長余力はものすごいものがあると考えており、成長投資と配当のバランスでは、約7対3の割合で資金配分の計画を立てています。
先にも述べましたが、「A-」格付けを取得したことで信用力が上がり、資金調達の選択肢が広がり、成長投資への余力も生まれました。強固な財務基盤の下、中期事業計画の成長戦略を着実に実行し、目標達成に向けて邁進してまいります。
ステークホルダーの皆様におかれましては、今後も変わらぬご愛顧とご支援をよろしくお願い申し上げます。